私が 初めて使用したパワーFETはシリコニクス社製のVMOS VN66AKで、許容ドレイン損失5WのTO39型で小型のものを、JF1WPR柳橋 健さんを見習ってRXフロントエンドに組み込んだのが初体験でした。
当時 パワーFETのゲートバイアスは定電圧レギュレーターを個別に挿入する使い方が常識になっていて私には不可解でした、全体に定電圧電源を使っているのだし、ゲート電流も流れないのだから不用ではないかと考え、思いきって取り払いましたが、何事もありませんでした。実に手軽に使用出来ることになりました。
当時現用していた2SC1307使用のファイナルが、時々起こす熱暴走に悩んでいましたので、熱暴走のないFETにあこがれて是非ともやってみたいと考えるようになっていました。
ファイナルユニットに使用したいと考えたVMOS FET DV2800シリーズは175MHz帯で実用出来る 当時としては画期的なデバイスでした。
手に入れた説明書には データーがいろいろ表示されていました。
175MHzのゲインは10DBあるとか、175MHzのテスト回路とか、入出力の周波数対インピーダンス特性が明記してあるなど親切なものでした。残念ながら入出力特性の直線性がそれほどのものではないことも、きっちりカーブが記載してありました。
当然のことながら50MHzでの使用例などはありませんので、入出力のマッチングをどうするか?から考えなければなりませんでした。
ファイナルユニットの構成は、とりあえず2段増幅でやって見ることにして実験に取りかかりました。
最初はトランジスタと同じだからと、ファイナルの出力マッチングから始め、私の常套手段をとり、DCパワーを供給するRFCを出力容量と共振させ出力側を見かけ上純抵抗状態にしておいて、適当なインピーダンスマッチング回路を入れて50オームに整合させる方法で、難なくOKとなりました。ドライブは現用していた2SC1307 10W出力をATTを介して直接ファイナルFETのゲートに供給しました。
50MHzのLは空芯で巻いて作ると適当な大きさになるし、延ばしたり、縮めたりしてインダクタンス値を調整できるので、好都合です。
マッチング回路を作るときは、ちゃんと計算をしたうえでLとCの値を出すべきと思うのですが、最終的には調整しなければよい結果が出ないし、計算したLの値が***マイクロヘンリーと出ても、LCRブリッジを持っている訳ではなく正確に作れないので、結局はカットアンドトライになってしまいます。
出力マッチング調整で注意しなければならないことは、アンプのゲインを最大にするのではなく、アンプの出力が最大になるように調整することです。アンプをオーバードライブにしておくと間違いない調整が出来ると思いますがファイナルをふっ飛ばさないように気を付けないと泣くことになります。何倍も大きい出力が出るようにに調整すると電力能率がたいそう悪くなります。
次は前段の入力マッチングを実験しました。
パワーFETは入力容量が大きいのでどうなるか心配でしたが、自作の高感度SWRメーターを使って、先述の要領で空芯コイルと直列のトリマーコンデンサを調整して、これも難なく終りました、ただ後でコイルをトロイダルコアに作り替えましたら、なかなか同じインダクタンスにならず苦労しました。
ドレイン側の負荷はRFCと並列にダミー抵抗をかませ、ここで出力レベルを測定しました。
次の作業は前段とファイナルを結合させることですが、これがどうしたらよいか分らなくて苦労することになりました。
FETが市場に出たばかりのことで、結合回路についての文献など全くありません、トランジスタとは性質が全く違う入力回路を作らなくてはなりません、入出力インピーダンス特性のデーターがあったのでスミスチャートを使ってマッチングをとろうとして、テキスト通りチャート上にプロットし、LCの値を計算で出したまではよいのですが、先述したようにどうやったら望みのインダクタンスが作れるのか問題です、仕方なくトロイダルコア−を使ってデーター通りの作り方をして、それらしいものを作ってみましたがなんとなく心細く、それでも心は急ぐので、でっちあげました。
早速 総合動作のテストをしますと。ちょっと出難い感じはありますがなんとか10Wの出力があります。
更に調整をしたらもっとよくなるだろうと思いつつ、テレビに目をやってがっかり、ダミーロードなのにTVIで映像がメチャメチャです。
調整をしてみましたら、LCそれぞれピーク点もあり、調整は取れた状態に見えますが、TVIのひどさは全く改善されません。 その後何ヶ月かいろいろのマッチング回路を試みましたが改善出来ませんでした。
そのうちに回路が発振していることに気付きました。電源ON直後は何事もないのにドライブが掛ると発振する、発振が始まるとドライブを止めても持続する、寄生振動のようでした。50MHzではゲインが取れ過ぎるので発振するのではと考えつき、どうしてゲインを下げようかと悩みました。
当時バイポーラトランジスタのパワーアンプでは、ネガティブフイードバックを掛けることが一般化して、文献でも見られるようになった頃でしたので。FETにも掛けて見ようかと思い立ちましたが、入力容量の大きいFETでは位相回転が大きくてどうなるか不安でした。
取りあえずバイポーラトランジスタ並にと、300オームをドレインからゲートへつないで動作させて見ましたら、発振は止りましたが、パワーは出難いし、TVIはやや改善されただけで止りません、マッチングは調整してもブロードになって何をしているのやらハッキリしません。
NFを掛けたので入力インピーダンスが下ってこんな状態になったのかな?と考えましたが、どうなっているのか全く分りませんでした。
仕方なくスペアナでのぞいて見ましたら なんとパワーは3W位しか出していないのに、LPFも入っているのに、第2高調波が−20DBを割り込み、第3,第4,第5,第6と延々物凄いレベルで連なっています、2トーン信号も3次,5次,7次歪は基本信号と同じくらいのレベルで完全に飽和状態です、ファイナルのドレイン側は異常なく動作しているのを確認しているので、悪いところは段間結合部しかないと決めつけて、今までやってきたことを何ヶ月もかけて全部繰り返して見たり、再検討して試したりしましたがよくなりません。何時の間にか1年が過ぎようとしていました。
何時まで経っても打開策が浮んで来ないし、もう諦めようと思いかけた時、バイポーラトランジスタアンプと同じようにコンベンシヨナルトランスで結合したらどうなるだろう、あまりにも入力の性質が違うのだけれど、駄目もとでいいからやってみようと思いつき、フェライトビーズでトランスを作って入れて見ましたらどうでしょう!! 今までの右往左往は何だったのだろうと馬鹿らしくなる程快調な動作になってしまいました。
更にカットアンドトライしてトランスの巻線比を決めました。フイードバックの330オームの抵抗はパワーを10W出して調整しているうちに発熱して焼けてしまい、大きい3W金属皮膜抵抗に交換しました。
こんなところがこれ程発熱するとは、私には考えられませんでしたので、これでよいのだろうかと悩みました。
そのうちにゲートの高周波電圧が前段に何か影響を及ぼすのではないだろうかと心配になって、ミクサーユニットとの結合箇所に10DBのパッド(アッテネータ)を入れることにしました。
こうなってはゲインが不足するので、ファイナルユニットは3段増幅器構成で作り直すことにしました。
ファイナルの出力マッチング調整は歪が少なくなるよう出力30Wで調整したうえで10Wに入力信号を落して使用しましたが、電力効率が悪くなって30%を切ってしまいました。現在は20Wに増力して40%くらいになっています。
完成当時スペクトラムアナライザーで観測した記録をお見せします。
歪特性はあんまりよくありません、このあたりはシリコニクス社のブレテンどおりだと思います。
マッチング回路のせいでしょうか それともLPFのおかげでしょうか 高調波が全くありません、
これはビックリでした。
回路図へ 本文トップへ 写真へ トップページ系統図へ H.Pトップへ 編集後記へ
08年8月追記
9MHz 2Tone SignalをMIXER IN から入力した 20W 出力時のFINALスペクトラム
簡易スペアナに依り測定(08年7月)
2.5KHz以下と20KHz近辺の小さいものは測定器のスプリアスです 無視してください
同じく 10W 出力時のFINALスペクトラム
2.5KHz以下と20KHz近辺の小さいものは測定器のスプリアスです 無視してください
測定条件は完成時と今回では少し違っています。
ファイナルユニットの完成した1985年当時に測定したデータと、
今回20余年振りに簡易測定したデータを比べ少し悪い結果が出ました。
マッチング回路の再調整やアイドリング電流の調整をやり直して見たのですが、
顕著な改善は見られませんでした。
見かたと表現を変えると、少々さわっても歪特性はさっぱり変化しないので、安定感が大きいです。
送信機としての性能は完成当初から あんまりよい特性ではないと言っておりましたが、
今 改めて見直すと些かお恥ずかしい思いです。
今回 Mixer ユニットとFinal ユニットの再調整を行った経験では歪の改善は非常に難しい作業です。
最初から 無理を承知で直線性のあんまり良くないFETを使った結果がこの様な現実となった訳です。
出力10wと20wのスペクトルを比較して分ることは、普通 出力を3db増加すると歪は3倍の9db増加となるはずですが 本機はそれほど悪くなりません。
歪は多いのですが これはFETの非直線性のせいで、飽和する迄には未だ余裕があるようです。
音声変調したスペクトルを観測すると、占有しているバンド幅は10KHzで-60dbまで下がります。
やや広いめですが、マイクロフォン増幅器に制限増幅器の性能の良いものを入れているので それ以上は絶対に広がりません。
復調した音声は クリアーに聞えます。
最近の国際会議で占有帯域幅やスプリアス強度の基準が見直され、
わが国でも数年の猶予期間を経過後、
厳しい設備規則に改定されることになりそうです。
将来「この送信機が使用禁止の運命になる」と思うとちょっと寂しいです。
回路図へ 本文トップへ 写真へ トップページ系統図へ H.Pトップへ 編集後記へ
50MHz2トーンゼネレーター | 自作 50.1MHz及び50.11MHz |
9MHz2トーンゼネレーター | 自作 9.0015MHz及び9.0035MHz |
ダミーロード電力計 1 | 自作 |
ダミーロード電力計 2 | MOTRORA社製 |
VSWR検出器高感度型 | 自作 |
P−P型検波器(各種) | 自作 |
方向性結合器 | メーカー製(製造社不詳) |
スペクトルアナライザー | ヒュレットパッカード社製 |
簡易式スペクトルアナライザー | 自作復調器,AD-DAコンバータ,パソコン及びソフトウエア |
高周波可変減衰器 | ヒュレットパッカード社製 |
DV2800シリーズ ブレテン | シリコニクス社 |
トロイダルコア活用百科 山村 英穂著 | CQ出版社刊 |
その他 CQ誌各巻多数 |